高次脳機能と生活機能の両面から認知症にアプローチ！
認知症の人へのリハビリに困難を感じていませんか？ 評価・観察のポイントや、理解しやすく意欲的に取り組んでいただくためのコツを、現場の第一線で活躍するセラピストが伝授します。今後ますます増える認知症高齢者。その人をしっかり見つめ、自立した生活を支援していきましょう。
出版社:株式会社QOLサービス
発行日:2020年3月21日発行
サイズ:AB版
ページ:150ページ（オールカラー）
価 格:2,500円＋税＋送料
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認知症の定義
認知症のリハビリ・機能訓練の考え方
認知症のリハビリ・機能訓練の枠組み
高次脳機能障害に対するリハビリ・機能訓練例
生活機能障害に対するリハビリ・機能訓練例
見当識（時・場所・人）
見当識は、時・場所・人から構成されており、アルツハイマー型認知症になると、時（年月日→季節）→場所→人（自分→他人）の順に障害され、混乱がみられるようになります。
見当識は記憶、視覚認知などの認知機能と関係しています。加齢に伴う見当識の機能低下はみられますが、日常生活に大きな支障は生じません。高齢になれば道に迷いやすくなり、新しい道を覚えるのも苦手になりますが、迷っても周囲の人に聞くなどして目的地に到着できます。一方、道に迷ってそのまま家にたどり着けない、他人の家に上がるなど、日常生活に支障を来すようになると認知症となります。
このように、見当識はいつ・どこ・だれを認識する能力です。つまり、これが障害されることで、日常生活に支障を来すようになるだけでなく、ご本人の不安が徐々に募っていくことは容易に想像できると思います。アルツハイマー型認知症など多くの認知症は進行性ですが、「初期段階からのご本人に対する意識付けなどの直接的なかかわり」や、「周りの環境調整で、少しでも安心して生活できるようなかかわり」が望まれます。
記憶
記憶の過程は大きく「記銘→保持→想起」の３つに分けられます。前段階も含めると、「注意→記銘→保持→想起」となります。アルツハイマー型認知症になると、注意や記銘が苦手になるので、保持や想起ができません。出来事そのものを忘れてしまっているので、そのときの状況を説明しても思い出せず、記憶そのものが保持されていないので、周囲からの説明は身に覚えのない指摘をされていると感じます。周囲の人の「思い出させてあげよう」という親切心がかえってご本人を追い込む場合があります。
記憶を時間で分類すると、「即時記憶」「近時記憶」「遠隔記憶」となります。また、目の前の作業をするときだけ必要とする記憶をワーキングメモリ（作業記憶）といいます。さらに、記憶の内容による分類は「陳述記憶」「非陳述記憶」に分けられます（図１）。
加齢による記憶への影響は、低下するものと維持されるものがあります。「リンゴは赤い」「リンゴは果物」といった一般的な知識などの「意味記憶」や、自転車に乗るなどの「手続き記憶」は、ほとんど低下せず維持されます。一方、個人の経験に関するエピソード記憶は、加齢に伴い低下します。例えば、「買い物に行ったことは覚えているが、何を買ったか思い出せない。買ったものを見ると思い出せる」ということがよくあります。しかし、認知症では買い物に行ったこと自体を忘れてしまいます。
注意機能
注意機能とは、多くの対象や体験の中から、特定のものを選択して、はっきりと意識する精神機能のことで、脳幹網様系、帯状回、前頭葉、頭頂葉が作るネットワークが支えています。そのため、その機能は意識レベルとも関係します。例えば、眠くてボーッとしている状態で勉強しても頭に入りません（記憶に残らない）。「記憶」（16ページ～）でも述べたように、記憶の過程は記銘→保持→想起という３段階ですが、特に記銘を効果的に発揮するための前提条件として、注意機能は必須です。
つまり、注意は人間の認知機能が適切に作用するために必須の基本的な認知機能です。機能も多様なため、その機能の分類や名称もさまざまです（図１）。
遂行機能
遂行機能とは、目的を持った一連の活動を有効に行うのに必要な機能１）とされ、前頭葉がその中心的役割を担っています。人が社会の中で活動していくために不可欠な機能で、多くの認知的、情緒的、社会的技能の基盤を成すものです。
遂行機能の要素としては目標の設定、計画の立案、計画の実施、効果的な行動遂行が挙げられ、前頭葉の損傷によってそれらの要素がうまく働かず、自己統制の欠損、情緒不安定、平板化（感情の起伏が少ない）、衝動性、極度の不注意、頑固、注意の転換、行為の切り替えの困難など1）が出現します。
実生活の中でよく見られ、深刻な問題とされるのは、行動を起こさない、モチベーションが低下している（または、ない）、目標行動へ向けて計画・実行ができないことです。このため、怠け者扱いされたり、詐病と思われたり、精神障害があると誤解されたりすることがあります。
感覚
加齢に伴い、以下のような感覚の変化があることが指摘されています（図１）。外界からの感覚情報が適切に入力されないと、その情報を適切に認知することができません。また、聴覚をはじめとした感覚の低下は認知機能低下との関連性も指摘されています。感覚の低下について知り、必要に応じた対応が求められます。
自己身体認知
自己身体認知とは、自己身体の気付きのことでボディーイメージともいわれ、頭頂連合野（体性感覚の情報処理）と後頭葉（視覚の情報処理）が主に作るネットワーク（感覚を統合する過程）が支えています。ネットワークに問題がある場合だけでなく、両感覚情報をとらえていなければ、自己身体への気付きは起こりにくい状況となります。
高齢者の転倒事故の一部は、自己身体認知の不正確さに原因があるとされています。障害物（段差）をまたぐ、障害物（壁）の間を通り抜けるなどの実験で、高齢者は若年者より体の一部が障害物に接近する現象がみられます。これは、障害物と体との距離感を感じ取る視覚機能の働きと、四肢の位置と運動速度力や加減を感じ取る体性感覚機能の働き、この両方の機能が相互に発揮できていないことが主な要因です。
自己能力認知
自己能力認知とは、自分自身の能力を正しくとらえることであり、前頭葉、頭頂葉、後頭葉が作る脳内ネットワークが支えています。それぞれの働きは以下の通りです（図１）。これらの働きがバランスよく発揮されることで、自己能力に見合った活動ができるといわれています。また、活動が成功するかどうかの良し悪しには、自己能力（内的動機づけ）に見合った課題（外的動機づけ）の設定が必須です（図２）。自己能力が理解できているのに失敗する場合、本人が自ら行う課題（運動、仕事、余暇活動など）の内容や行う意味を理解できていない可能性が考えられます。
環境と社会的認知
人がどのくらい活動できるか、どのように活動するかは環境にも影響されます１)。認知症の人や高齢者の低下した各認知機能に配慮した環境づくりを心掛けることで、活動する際の混乱を減らすことができます。環境の調整は高齢者支援の現場で重要なポイントになります。
また、環境には自分以外の他者が含まれます。穏やかな環境で過ごすためには、相手の立場に配慮したコミュニケーションが求められますが、これにかかわるのが、他者や外部環境の中の自分の存在をとらえ、自己だけでなく他者の内面を推測する働きで、いわゆる「社会脳」といわれる機能です。社会脳の主な機能に「心の理論」がありますが、心の理論とは、相手の心的な状況を推測し、相手が何を考えてどのように行動しようとしているのかを推察する能力です。「視点取得」の機能もこれに関連します。認知症でも心の理論機能が低下し、特に行動障害型の前頭側頭型認知症では自分から見た視点を抑制することが苦手になり、アルツハイマー型認知症では他者視点を取得することが難しくなるとの指摘もあります。つまり、心の理論機能が低下することで、周囲の人とのコミュニケーションに支障を来すようになります。
VACトレーニング
VACとは、視覚（Vision）、注意（Attention）、認知（Cognition）の頭文字を合わせた造語で、この３つの機能を合わせたトレーニングを指します。体を動かそうとするときは、この３つが同時に機能するため、注意の配分が必要です。さまざまな機能（感覚）を併用しての動作を行うため、脳の活性化につながります。
脳足トレーニング
脳足トレーニングとは脳トレと下肢のトレーニングを同時に行う多重課題（デュアルタスク）のことです。介護現場では座位の時間が長く、下肢の活動量が少なくなりがちです。脳足トレーニングをすることによって認知症の進行を予防する脳トレと下肢の活動量を上げることができます。また、多重課題であることから、「注意分割機能」の向上も期待できます（対象：軽度～中等度の認知症の人）。脳足トレーニングとは脳トレと下肢のトレーニングを同時に行う多重課題（デュアルタスク）のことです。介護現場では座位の時間が長く、下肢の活動量が少なくなりがちです。脳足トレーニングをすることによって認知症の進行を予防する脳トレと下肢の活動量を上げることができます。また、多重課題であることから、「注意分割機能」の向上も期待できます（対象：軽度～中等度の認知症の人）。
食事
一般的に高齢者の食事には、食欲の低下や機能低下など以下のような課題が挙げられます。それに加え、認知症の人の食事では、食べ物を認識できず手をつけなかったり、一つのおかずだけを食べるなど、認知症特有の課題が起こり得ます。
まずはその課題の原因を検討し、解決・改善のアプローチを組み立てましょう。
排泄
一般的な高齢者の排泄には、身体機能の低下やそれに伴う心理的な不安など、以下のような課題が挙げられます。それに加え、認知症の人の排泄では、高次脳機能障害からの尿意・便意不全、トイレの場所や清潔観念の認識欠如、ペーパーホルダーや水を流すレバーなどの操作が分からない、といった認知症特有の課題が起こり得ます。まずはその課題の原因を検討し、解決・改善のアプローチを組み立てましょう。
入浴
一般的に高齢者の入浴には、体調面や身体機能の低下などによる以下のような課題があります。それに加え、認知症の人の入浴では、入浴することへの抵抗、服の脱ぎ着が困難になる、蛇口やシャワーなどの操作が分からない、入浴中の尿便失禁といった認知症特有の課題が起こり得ます。まずはその課題の原因を検討し、介護者の困り事についても解決・改善のアプローチを組み立てましょう。
移動
認知機能と歩行能力は相関関係にあることはよく知られています。歩行能力が低下すると、外出頻度が減り、認知機能が低下します。逆もまた然りです。ここでは、歩行や外出の機会を増やし、歩行能力を維持するための取り組みを紹介します。
更衣
入浴後の衣服の選択がうまくできず、着ていた服をまた着てしまう場合があります。浴室に入っている間に家族が衣服を準備するなどの対応もありますが、本人が自立して行うための工夫を考えます。
整容
認知症が進行し自分でできることが少なくなると、周りの人の介助に頼りがちになります。興味・関心が高まれば、自発的に行えることもあるため、身なりを整え、美しくありたいという意欲を引き出す介入について考えます。
調理
もともとは料理好きでも、記憶障害により冷蔵庫の食材を使いきれず賞味期限が切れてしまったり、朝炊いたご飯が残っているのにまたご飯を新たに炊いてしまったりなどということが起こります。また、包丁さばきや火加減の調節、味の加減などは問題なくても、弁当箱におかずを詰めることができないことがあります。電子レンジなどの家電製品の操作方法が分からなくなると、温めなどの簡単な調理もできなくなります。調理が失敗体験となってしまうと、意欲の低下だけでなく、食欲も湧かなくなってしまうかもしれません。
掃除
認知症を発症すると展望的記憶が障害され、「何かするべきことがある」という記憶の想起が難しくなります。そうなると、生活意欲が低下し、ボーっと過ごすことが多くなります。自宅での役割として掃除に取り組んでいただくための介入のポイントを紹介します。
洗濯
いつも同じ洋服を着ていたり、衣服が汚れたりしている人がいます。汚れは目に見えなくても、シミや傷みなどにより衣服の寿命が短くなります。また、衣服が不潔だと臭いの原因になるなど、周りにも不快感を与えてしまいます。洗濯を習慣化し、衣類の清潔を促す取り組みを紹介します。
コミュニケーション
ミュニケーションは「バーバルコミュニケーション」と「ノンバーバルコミュニケーション」の２つに分類されます。円滑なコミュニケーションを図るためには、それぞれを切り離して考えるのではなく、どのように組み合わせるのがご利用者にとって有効なのかを考えることが重要です。
認知症の重症度によって、コミュニケーションの取り方は大きく異なります。重度になるにしたがって、失語や記憶障害などにより円滑なコミュニケーションができにくくなっていき、ノンバーバルコミュニケーションの活用が重要視されていきます。
福祉用具
認知症の人が使用している福祉用具には、低下した認知機能の補助やこれにより生じる不安の緩和、認知機能の低下により起こる生活上の不便さを補うものがあります。例えば、薬の飲み忘れを防ぐ服薬支援機器、コミュニケーションを促すロボット、不測の離床を介護者に知らせる徘徊感知器などです。生活機能障害に対しては、遂行しやすくするためのポータブルトイレや工夫された食具、身体機能を補う手すりや車イス、感覚障害に対しては眼鏡や補聴器などがあります。介護者の負担を軽減する意味でも、福祉機器は活用されています。
コミュニケーションカード
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